アカデミー賞外国語映画賞は、世界的に評価の高い非英語圏監督の作家性が表れた作品か、その国らしいイメージや問題を表現しつつ普遍的なテーマを語る作品、もしくはアメリカでヒットした非英語作品が受賞することが多い。
若干緊張気味?の本木雅弘と広末涼子
そこでなぜ今年は「おくりびと」だったのか。
“ 誰にでも訪れる死”は万国共通のテーマである。愛する者の死を受け止めて、残された者が生きていく覚悟を新たにするために死者を送り出す儀式。それが葬儀だ。これも万国共通。だが、葬儀には宗教がからんでくるので、その違いを受け入れない人もいる。しかし、「おくりびと」は葬儀の前の儀式である。“納棺” は葬儀の形式や宗教を問わずに行われ、納棺師は死者が誰でもどんな状態でも尊厳をもって扱う。自分が死者であればそうして欲しいと思うように。
「おくりびと」は、アメリカ人から見れば東洋的で神秘的な日本らしい儀式を描きつつ、死と生という普遍的なテーマを語り、適当に生きてきた青年が人とのつながりの温かさに育まれ成長していく様をユーモア交えて描く。舞台はたぶんアメリカ人にも懐かしいような田舎町。だからアメリカ人でも我がことのように「おくりびと」の心を受け取れたのである。
今年、アカデミーは作品賞・監督賞に愛と希望を信ずる作品「スラムドッグ$ミリオネア」を選んだ。戦争と憎悪と格差を育て環境破壊にまみれた前大統領を葬り去り、新大統領に希望を託すアメリカは、今、映画に愛と希望を見たい。
その気分で外国語映画賞の候補を見てみよう。ドイツ赤軍バーダー・マインホフの成立? 自己主張の強い子どもたちに途方に暮れる教師? 売春婦とひもの逃避行? パレスチナ人虐殺の記憶を封印した兵士? どこに愛と希望がある。そう。愛と希望、生きていてよかった、あしたも生きていこう…それがあったのは「おくりびと」だけだったのだ。当然とも言うべき受賞、である。【シネマアナリスト/まつかわゆま】
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